ローンが組めない?キャリア形成ままならず…
30代、心の病の影広がる
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「企業の責任」を問う流れも強まっている。04年11月、東芝にエンジニアとして勤務していた女性(当時30代、現在療養中)が起こしたうつ解雇訴訟。業務上のストレスでうつ病になったのに、休業期間の満了を理由に解雇通知したのは不当だとし、解雇の無効と損害賠償を求めている。
司法の判断はこれからだが「専門医を置いたり、療養期間中賃金を補償したりと、社員のメンタルヘルスには手を尽くしていると考えてきた企業が提訴される可能性も出てきた」。うつ病患者の復職支援に取り組むMDA―JAPAN(うつ・気分障害協会)の山口律子さんは警鐘を鳴らす。
仕事がうつなどの引き金になるとは断定しにくいだけに企業の対応にも限界はある。ただ、「精神に不調をきたした社員を次々切っていけば、『明日は我が身』と、周囲の士気も落ちるだけ。問われているのは、マネジメントの質」と、メンタル・ヘルス研究所の根本氏は指摘する。
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http://www.be.asahi.com/20061007/W13/20060928TBEH0018A.html
(記事前文はOpenmoreをクリック)
だそうです。朝日新聞から掲載のお知らせが無かったので気づきませんでした。
以前朝日新聞の記者さんから取材は受けていましたが。
「企業の責任」を問う流れも強まっている、ですか。
自分ではあまり自覚はありませんが、この裁判の意義はやはり大きいようですね、
うーん…このところ調子が良くないんですが。
逆に、いままで「企業の責任」は問われてなかったのでしょうか。その事実にびっくりです。

30代、心の病の影広がる
長い低迷を抜け、日本経済はようやく巡航速度に乗ったかに見える。だが、多くの企業で、うつ病など心の病を抱える社員が増加傾向にある。中でも、不調をきたす人の割合が突出しているのが30代。ストレスが多いのが現代社会とはいえ、資産づくりやキャリアの形成などを通じて、今後の社会を牽引(けんいん)する、こうした年齢層を襲う異変は軽視できない。(鈴木淑子)
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東京都内の不動産会社に勤める30代の男性は、今年5月、思わぬ事態に直面した。春先の長期金利の上昇を受け、2年前のマンション購入で借りた短期固定の約3000万円の住宅ローンを、長期固定のローンに借り換えようとしたところ、断られたのだ。
物件や自身の所得状況に、問題はないはずだった。銀行にただすと、貸し出しの条件になっている団体信用生命保険(団信)への加入が拒否されたことが原因と分かった。
思い当たる節はあった。一貫して調査、企画の仕事をしてきたが、前の職場で志願して営業に。マンションも購入、仕事にのめり込んだ。ところが、ある朝、突然、布団から起きあがれなくなり、みずからメンタルクリニックを訪れた。診断は軽度のうつ。一時は薬も飲んだが、ここ1年ほどは通院するほどでもなかった。「どうにか乗り越えられつつある」と感じていた矢先の出来事だった。
結局、男性は医師に完治証明を出してもらうことで団信への加入が認められ、8月にはローンも借り換えられた。
だが、精神疾患を抱える人へ死亡保障や医療保障を行うシェイクハンド福祉共済会の和田泰弘理事長は指摘する。
「しばらく抗かいよう薬を飲めば治るようなちょっとした心の不調でも、精神科や心療内科の通院歴があるというだけで、生命保険に入れず、ローンも組めないという話は、決して珍しくない」
専門医受診の敷居が低くなった一方、30代で住宅取得などを本気で考える段になって、困難に直面するケースは、少なくないという。
なぜだかしんどそう、日によって話のトーンがまったく違う――。人材紹介最大手のリクルートエージェント(東京都千代田区)では、求職登録者の適性や技能を見極める面談でのこうした違和感が報告されることが多くなった。
健康状態にかかわる情報はあくまで自己申告。だが「体調不良」で前職を辞めた人の中には、能力と職種のミスマッチからうつになった人も少なくない。担当の塩間範子グループマネジャーが言う。
「年齢や離職期間が長くなることを考えて焦り、復調していないのに求職活動をする人がいる。しかし、転職は高いストレス。採用されても、再発し、結局、辞めざるを得ず、技能や経験が身につかない『負のスパイラル』に陥っている例も見受けられる」
先駆的なメンタルヘルス対策で知られる日本ヒューレット・パッカード(東京都品川区)。同社は採用面接で、「この1年で緊張を覚えたのは、どんな時ですか?」と必ず質問する。ストレスチェックの問診票の項目に近い。
何をストレスに感じやすく、それにどう対処したかを聞き出すことで、配属先の決定などの資料にするためだ。面接官となる管理職には、専門の産業医による研修を事前に受けさせている。
システム開発などは、深夜の作業もいとわないエンジニアがいるからこそ、厳しい納期を守れる面がある。だが、「ストレスに弱い人」は採らない、では優秀な人材を逃すことになりかねない。
一守靖人事企画・コミュニケーション本部本部長は、「そういう人を排除するのではなく、ケアすべき兆候を、あらかじめ認識しておき、職場で拾い上げられる態勢を整える。その方が、会社にも、本人にもプラス」という。
ただ、こうした取り組みは、一部の企業に限られる。リクルートエージェントはこの夏から、うつ病などの罹患(りかん)者を採用する際の偏見をなくすためのCD―ROMを顧客企業に配布し始めた。
■企業の責任問う声も
「98年の転換点」「遅れてきた変化」。職場で心の不調をきたす人が増えた背景として、産業精神保健の専門家らが使うキーワードだ。
社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所の根本忠一主任研究員の仮説はこうだ。
98年は、自殺者が初めて3万人の大台に乗った(年表参照)年。前年の大型金融破綻(はたん)をきっかけに、日本経済は深刻な危機のただ中に。企業社会では、バブル崩壊以来、働く人の間に「希望が持てず、仕事の負担ばかりが募る」という空気が広がっていた。
そこに、多くの企業が人減らし、成果主義の賃金・人事制度の導入に動く。評価への不満、部下を切り捨ててでも点数を稼ごうとする上司……。ギクシャクする職場に、後からやってきた変化が、今後のキャリア形成や生活設計に揺れる30代の心の病の増加をもたらしたのでは――。
同本部の調査によると、心の病による1カ月以上の休業者を抱えていると答えた企業は06年に74.8%に達し(グラフ参照)、長期休業の原因に占める精神疾患の比率は、高いところで5~6割に上る。
「企業の責任」を問う流れも強まっている。04年11月、東芝にエンジニアとして勤務していた女性(当時30代、現在療養中)が起こしたうつ解雇訴訟。業務上のストレスでうつ病になったのに、休業期間の満了を理由に解雇通知したのは不当だとし、解雇の無効と損害賠償を求めている。
司法の判断はこれからだが「専門医を置いたり、療養期間中賃金を補償したりと、社員のメンタルヘルスには手を尽くしていると考えてきた企業が提訴される可能性も出てきた」。うつ病患者の復職支援に取り組むMDA―JAPAN(うつ・気分障害協会)の山口律子さんは警鐘を鳴らす。
仕事がうつなどの引き金になるとは断定しにくいだけに企業の対応にも限界はある。ただ、「精神に不調をきたした社員を次々切っていけば、『明日は我が身』と、周囲の士気も落ちるだけ。問われているのは、マネジメントの質」と、メンタル・ヘルス研究所の根本氏は指摘する。
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改正労働安全衛生法
4月施行。メンタル不調者の増加を踏まえ、月100時間超の残業をした労働者に医師の面接などを義務づけた。産業界からは「企業負担が増すばかりだ」との不満も。社員を被保険者とする精神障害担保特約付きの長期傷害保険に加入する企業も増加。万一の場合は保険で済ませようと考える経営者の多さを映すようだ。